津村節子の作品おすすめ25選｜小説からエッセイまで紹介！『流星雨』など

1928年に福井県で生まれた津村節子は、1959年に初めて作品を発表しています。小説『玩具』で芥川賞を受賞しました。その他にも新潮社同人雑誌賞・女流文学賞・芸術選奨文部大臣賞・川端康成賞・菊池寛賞など数々の賞に輝いています。2016年には文化功労者となり、2018年には紺綬褒章を受賞しました。

彼女の描く物語には、生きていく中で逆境にあっても自分の決めた道を進んでいく人々の姿が、女性の視点で描かれています。読んでいて心を打たれるのは、主人公たちのひたむきさです。

今回は、小説家として華々しいキャリアを持っている彼女の生い立ちや家族について深堀しました。小説だけではなくエッセイも出版している津村節子作品の特徴や、おすすめの本なども合わせてご紹介します。

絹織物を生業とする家庭に生まれた津村節子は、3人姉妹の次女でした。病弱で読書に明け暮れ、小説家を漠然と目指し、14歳で257枚に及ぶ小説を完成させています。少女時代に両親をなくし、戦争中は東京工業専門学校写真科に合格しました。

終戦後は生活に困らないようドレスメーカー女学院に通います。卒業後に開いた洋裁店は繁盛しましたが、戦時下の環境で十分に勉強できなかったのがコンプレックスで、店を閉めて学習院女子短期大学に進みます。大学では学芸部を創設し、少女小説を発表しました。

夫となる小説家の吉村昭との出会いは大学の文芸部でした。第一印象は老けて見えたそうです。吉村の弟が仲を取り持ったプロボーズを経て、津村節子の卒業と同時に吉村昭は大学を中退して結婚します。

しかし、小説家を志している2人の生活は厳しいものでした。夫の月給が15,000円と少ない中、貧乏に耐えながら同人雑誌に作品を発表し続けます。丹羽文雄氏主宰の「文學者」で書く場を得たり、文芸編集者のアドバイスで別の雑誌に作品を持ち込んだり。15年を経て作品が認められていきます。

これまでたくさんの作品を残してきた津村節子は、今年で94歳になります。近年では週に一度はヨガに通ったり、骨を作る注射を打ったりしながら暮らしています。その効果なのか90歳を過ぎてもなお、黒髪を維持しているのだとか。若々しい姿に驚きます。

そして、夫にコーヒーを供え続けるのが日課です。現在は吉村昭記念文学館で名誉館長として夫の作品を広めつつ、福井県ふるさと文学館では特別館長を務めています。

津村節子は出会った人たち・自身の経験・歴史や芸術などの分野で生きた人々を女性目線で描いた作家です。女性ならではの心の揺れ動きを同性の立場から書いた作品を多く残しています。

また、私小説も豊富に発表してきました。編集者からのすすめもあり、夫婦ともに小説家を職業としている家族の厳しさを題材にしています。作品に垣間見えるのは淡々とした夫婦間の中にある愛情です。夫の死後は思い出を語る作品が増え、存在の大きさが伺われます。

津村節子の小説に触れるならば、代表作ともいえる数々の受賞作品から読むのがおすすめです。有名な賞を数多く受けている作品には、津村節子の実力が現れています。どれも読みごたえのある作品ばかりです。

短編ならば作風を確かめてみたい方にも向いています。通勤時間や家事の合間などの時間でも手に取りやすくておすすめです。これらは短編集となっていて、複数ある物語の内に受賞作品が含まれています。

新潮社同人雑誌賞を取った『さい果て』がタイトルとなっています。描かれているのは津村節子と吉村昭の新婚旅行の様子です。行先を実家にも伝えない放浪の旅で、終わるころには一文無しの状態でした。文学にのめり込む夫を不安の面持ちで見つめる妻が描かれています。

他には『玩具』と自伝的小説3部作の『茜色の戦記』『星祭りの町』『瑠璃色の石』が収録されています。この3つでは戦時中の女学生時代から結婚、文学の道を進んでいった経過を描いています。

『遍路みち』には、『消えた時計』『木の下闇』『遍路みち』『声』『異郷』が1冊にまとめられています。2011年に『異郷』は川端康成文学賞を受けました。

夫が生きている間に書かれた2編と、夫の死から3年が経ち、ペンを取った3編が一つになった短編集です。愛した夫に先立たれた妻の悲しみの心情を静かに表現しています。夫の死の前と後で執筆した作品がまとめられているため、津村節子の心の変化が読み取れるかもしれません。

集英社文庫では芥川賞を受賞した『玩具』がタイトルとなっています。こちらで取り上げられているのは夫と妻の関係性です。夫は時間を惜しんで小説を懸命に書くものの、売れない同人誌作家から抜け出せないまま。そんな姿を慮って妻は細やかな心遣いで接します。

ムラのある夫の気持ちに妻は右往左往してばかりですが夫はそれを顧みません。バランスを失いかける繊細な夫婦の間柄を、何とか維持する機微が描かれています。女性ならではの視線で女性の心の動きをあぶり出しています。

作品と向き合う時間が豊富にある方なら長編を選ぶのも一つの方法です。1冊で完結するので比較的に短時間で読み終えられます。歴史を取り上げたもの、芸術家の生涯を書いたもの、夫との闘病を主題にしたものなどバラエティに富んでいます。

『流星雨』の舞台は大きな悲劇を生んだ戊辰戦争後の会津です。鶴ヶ城が陥落した後、父・兄・夫など男性を数多く失い、戦争後に残った女たちはどのように生きていったのか。15歳の主人公、あきの視点で物語は進みます。

「流星雨」とは短時間に数千から数万の流星が現れる現象です。まるで流星雨のように人々はバラバラになってしまいました。厳しい生活を乗り越えていく姿に心が打たれます。1990年に女流文学賞を受賞した小説です。

詩人の高村光太郎の妻の智恵子を描いたのが『智恵子飛ぶ』です。1998年に芸術選奨文部大臣賞に輝いています。自身も夫も表現者だったのが、智恵子と津村節子の共通点です。厳しい芸術の世界に身を置くものとして親近感を覚えていたのかもしれません。

智恵子は平塚雷鳥が始めた雑誌『青鞜』の表紙を描きました。才能に恵まれた智恵子の夫への愛情や繊細な心の動きと病気に侵されていく過程が描かれています。

菊池寛賞を受けたのが『紅梅』です。吉村昭を舌癌で亡くすまでの経緯を題材にしています。主人公の育子は津村節子自身で、看病もむなしく夫の癌は転移します。延命措置を拒んだ夫は精神的にも肉体的にも厳しい状態に。

闘病生活と壮絶な死を妻としてだけでなく作家としても捉えた作品です。夫の死後に津村節子は小説家を辞めようとまで考えます。紅梅をモチーフに夫との思い出を描いた美しい映像が、巧みな文章表現から味わえます。

賞に輝いた代表作以外にも津村節子の小説では読んで欲しい本がたくさんあります。その中から特におすすめしたい3作品をピックアップしました。あらすじとともにご紹介するので選ぶ際の参考にしてくださいね。

死んだ夫への想いが綴られた小説の一つが『三陸の海』です。2人は吉村昭が小説家として認められた作品『三陸海岸大津波』の取材で三陸の地を訪れています。厳しい家計の中で訪れたのが岩手県田野畑村でした。

取材旅行以外は旅に出かけなかった夫ですが、この場所だけは家族で旅行しています。津波は繰り返し起こると訴えていた夫は、東日本大震災に見舞われた地を見たら悲しむはず。思い出のある地を孫や子供とともに再び訪ねる作品です。

昭和初期の遊郭をめぐる日常を描いた作品で、遊女のありのままの世界を描いた小説です。当時の女性はものと同様の価値として扱われていました。主人公のさよは、若くして吉原に売られます。

数多く降りかかる理不尽とそれにより傷ついていく心を赤裸々に描いています。戦争が近づいていく中で身請けされますが、明るい未来は見えないままです。

タイトルになっている『恋人』の他に『ねじり花』『迷鳥』など12編の短編が収まった作品です。平凡な日常を過ごす女性たちが、出会い・別れ・不倫などさまざまな愛の中で揺れ動く心を表現しています。『恋人』では、変化の乏しい夫婦関係に倦怠感を覚えている主人公の蓉子が、若いセールスマンに惹かれていくストーリーです。

吉村昭の死後に発表されたエッセイのほとんどは夫に触れられていて、存在の大きさが伺えます。『夫婦の散歩道』は執筆されたうちの約9割が夫の死後の2006年以降に書かれました。青春期から夫の死に至るまでの思い出が綴られていて、作家同士の2人が夫婦として暮らす大変さが描かれています。

『時の名残り』は88歳の著者が綴るエッセイです。作家として小説に取り組んできた若いころや故郷について触れられていますが、こちらにも夫は登場します。それだけ強い絆があったのだと推察できる作品です。

80歳以降も執筆を続ける津村節子は、初めての電子書籍を発表をしています。それが福井新聞に連載されていた『津村節子私の歩んだ道』です。このエッセイには、ふるさとの福井への思いの他に、作家への道を選んだころや、夫への思いまでが綴られています。

特に夫に関しては同じ職業を選んだゆえに、2人の生活には競ったり、助け合ったりしてきた関係性が見受けられます。子供時代から夫婦の歴史までを振り返られるように写真編も用意されています。

心の動きを優れた表現力で書いたのが津村節子です。思い立ったらすぐに行動に移し、ひたむきに小説と向き合ってきた人生でした。その生き方は豊かな表現となって小説に現れています。どんどんと話に引き込まれる確かな描写力が感じられます。

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