中上健次の小説おすすめ10選｜映画化作品や逸話を紹介！

読書では別世界の出来事を体感できます。電子書籍やブログなどの普及もあり、気軽に読みやすい作品が増えている現代。時には複雑で重厚な物語をじっくり楽しんでみたいと思いませんか？そんな方におすすめなのが中上健次の小説です。

中上健次は紀州生まれの作家で、閉鎖的な土地での複雑な血縁関係とその中で生きる人の葛藤を描いた物語を多く生み出しています。独特の世界観と読者を圧倒する表現力で、数多くの作家に影響を与えました。昭和の作家でありながら、実は今の若い世代にも興味を持たれています。

この記事ではそんな中上健次の小説について解説します。最高傑作と評された作品や映画化された作品など、おすすめの小説を紹介しますので、本選びの参考にしてください。また、出身地や逸話・死因などについての情報もお教えします。

中上健次は和歌山県新宮市の被差別部落生まれ。この出身地もさることながら、育った家庭環境も複雑でした。

• 母親は健次を妊娠中に父親の浮気が原因で離婚
• 義兄のアルコール依存症と自殺
• 母親の再婚
• 義兄弟たちとの生活　

中学卒業の頃までにこのようなさまざまな出来事があり、その複雑な生い立ちが後の作品のベースになりました。

中上健次は上京して放浪生活を送った後、肉体労働をしながら小説を書き、やがて芥川賞作家となります。修業時代の名残で、原稿用紙ではなくマス目のない集計用紙に執筆していたそうです。その他にも、中上健次はこのような逸話を残しています。

• 巨漢のイメージを持たれていたが、実際の身長は171cmほど（33歳当時）
• 韓国の気候や風土に強い関心を持っていた
• ノーベル賞候補を自称していた

中上健次は芥川賞の受賞後も作品を次々と発表し、人気作家として多忙な日々を過ごしていました。しかし、1992年に血尿が出て入院し、同年の8月12日に46歳の若さで死去。死因は腎臓がんでした。当時、連載中または休載中の多くの作品が未完となったそうです。

中上健次は自らの出身地である被差別部落を「路地」と呼び、その路地のしがらみと複雑な血縁関係を描いた作品が特徴的です。彼の描く土着的で独特な世界観は「紀州熊野サーガ」と呼ばれています（サーガ＝一族の歴史を描いた叙事小説）。

その背景には先に紹介した中上の複雑な生い立ちに加え、アメリカ文学の巨匠ウィリアム・フォークナーの影響もあるそうです。また、中上は犯罪事件にも関心が深く、現実の事件を参考にした作品も多く出しています。

中上健次は戦後生まれの作家として初の芥川賞を受賞しています。その受賞作品が「岬」です。閉鎖的な路地（被差別部落）での暮らしと、そこで起こる親族間のさまざまな事件を描いています。父親をはじめとした血縁者を憎みながら、自らもその血を引いていることへの葛藤など、主人公の複雑で激しい感情の表現が印象的です。

「枯木灘」は「岬」の続編となる長編小説で、毎日出版文化賞と芸術選奨新人賞を受賞しています。血の宿命に苦しみ、息が詰まる思いを振り切ろうと土方仕事に打ち込む主人公を描いた物語です。主人公が次々に遭遇する出来事と、過去の回想が目まぐるしく展開され、読者に衝撃を与えます。

「地の果て 至上の時」は作者自身が最高傑作と評するほど、渾身の力を込めて書かれた作品です。「岬」・「枯木灘」に続く3部作の完結編でもあり、3作すべて読むと理解がより深まります。

物語は主人公が刑務所から出所したところから始まり、土地開発で路地は消え、時代の移り変わりとともに血の呪縛に苦しみ続けた主人公にも変化が訪れます。

「千年の愉楽」は2013年に映画化され、映画は第69回ベネチア国際映画祭のオリゾンティ部門に招待されました。若松孝二監督の遺作でもあります。この作品も閉鎖的な空間である路地が舞台です。早死にの宿命を背負う一族の若者たちの生きざまを、産婆オリュウノオバの視点で神話的に描いています。

「火まつり」は1980年に起きた一族7人の殺人事件をモチーフにした小説で、1985年に映画化されました。小さな田舎町で暮らす木こりの男が、悪魔的な衝動に駆られていく姿を描いています。この作品のイメージは漫画「溺れるナイフ」の世界観にも影響を与えており、重要なシーンに火まつりが使われているそうです。

「十九歳の地図」は中上健次の初期の作品で、芥川賞候補にもなりました。19歳の予備校生が主人公で、新聞配達をしながら暮らす青年の日々と、その中での鬱屈とした感情が描かれています。シンガーソングライター尾崎豊のファーストアルバム「十七歳の地図」は、この作品へのオマージュとして作られたそうです。

中上健次の娘である、中上紀さんも実は小説家です。高校・大学時代をカリフォルニアとハワイで過ごし、その後、アジアを中心に国内外を旅してきました。その傍らで小説や紀行文を書いており、「彼女のプレンカ」ですばる文学賞を受賞しています。また、父の故郷である熊野の自然を保護する活動も行っているそうです。

中上健次の小説では閉鎖的な被差別部落の複雑な世界と、そこに生きる人間の葛藤が鮮やかに描かれ、衝撃的な読書体験が得られます。そんな中上健次の世界にどっぷりはまってみてはいかがでしょうか。以下の記事もあわせてご覧ください。